みなさんは『朝霧の巫女』という漫画をご存知ですか。
ネタバレになるので詳しくは書けませんが、
巫女ものだと思って読者を誘い込み、油断したところに日本神話や古史古伝、民俗学や民間伝承をベースにしたハードな展開を叩きつけてきます。
作者のそれらに対する造詣がこれまた深く、展開についていくのに人を選びまくる作品だと思いますが、ひとたび引き込まれてしまえば物語の外側、原典の方にも興味が向いてしまう、そんな漫画です。
連載開始は23年前、単行本の完結からも10年が経過していますが、『AIR』とともに僕のその後の人生に大きな影響を与えたと言っても過言ではありません。
閑話休題。
今回のGW本州ツーリング2023では、そんな朝霧の巫女の舞台も巡ってきました!
いつもより写真多めでお送りしていきますので、ぜひ漫画と見比べながらお読みください。
広島県三次市
★太歳神社
各巻の表紙でおなじみの「稲生神社」のモデルとなった神社です。
主祭神は木花佐久夜毘売命で、天津彦々火瓊々杵尊と大山祇神が配祀されています。
雨のため、3巻の表紙の雰囲気を味わいつつの参拝となりました。
太歳神社では巫女三姉妹のお守りが頒布されています。
初穂料は500円で、賽銭箱に納めます。お釣りは出ません。
太歳神社は比熊山の麓に鎮座しています。
山頂近くには稲生物怪録の発端となった神籠石(たたり岩)があり、この近くの登山口から登っていくことができますが、今回は雨のため断念しました。
季節によっては山頂から三次の名物である霧の海を拝むことができるようです。
登場箇所:各巻表紙など随所
★三次フードセンター(現・みんなの産直スーパー yotte-ne)
「居候の務めとして買い出しに行ってきます… 他に買うもの何かあります?」
「悪いわねえ」
「○に三の看板」が特徴的なスーパーです。
主に夕飯の材料を買い出しに行くなど、日常を印象付ける場所としてたびたび登場していました。
三次フードセンターとしては一度閉店してしまいましたが、地元住民の声に応える形で2022年にリニューアルオープンしたそうです。
登場箇所:1巻P161, 2巻P128
★前田小路周辺
ここは忠尋が三次フードセンターに買い出しに行った後、帰り道に通った路地です。
かつて三次のメインストリートであった本通りには、こうした路地がいくつも存在し、この一つには「前田小路」という名前がついていました。
「小路」と書いて「しょうじ」と読むこれらの路地は、生活道路としての役割のほか、防火スペースや排水路としても機能していたそうです。
ここ前田小路は、町内の資産家であった前田万助の土地や家屋があったことに因んで名付けられました。
石畳の舗装と古い建物が立ち並ぶのが特徴的な本通りです。
忠尋はここから比熊山を見上げていましたが、現実の背景には巴橋が見えており、比熊山はちょうど真反対の位置にあります。
なお、作中では左右も反転して描かれています。
登場箇所:1巻P162~P163
★三次太才町バス停
前田小路と一緒に1コマだけ登場するバス停です。
ここだという確証はありませんが、背の高い備北交通の看板と背の低い中国バスの看板(頭は地面に置かれていますが)が今でも並んで設置されており、
かつてはここにスタンプラリーのチェックポイントがあったことから、恐らくここがモデルなのだと思います。
登場箇所:1巻P162
★細田食料品店
2巻第七話の扉絵で珠ちゃんが立っているお店のモデルです。
三次本通りの北側、太歳神社のほど近くで営業されており、ここもかつてスタンプラリーのチェックポイントになったことがあるそうです。
登場箇所:2巻P55
★四つ辻(太才町交差点)
「おのれ口惜しや 憤怒と無念が瘧の如く腸を焼き 総身を顫わせる」
比熊山の麓にある交差点ですが、連載当時とはかなり様相が異なっています。
正面の空き地には作中にも登場するタイヤ販売店がありましたが、残念ながら解体され現存しません。
「承詔必謹水火を辞さず ただ御身のみに忠を尽くしましょう」
こちら側の建物は三次マツダモータースのショールームだったようですが、訪問時には看板が外されていました。
四ツ辻で立ちんぼは危ないぞ。
登場箇所:4巻P181, 6巻P73~P75他
★和洋酒 榊屋
「その餅菓子を」
「あら なにかのお祝いで」
「私のお祝いだ」
直範おじさんが自分の退院祝いに餅菓子を買った和菓子屋のモデルです。
卯建のつけられた往時の面影を色濃く残す建物で、現在はNPO法人の事務所として使われています。
登場箇所:4巻P29
★中ベーカリー
「こまさん 迎えに来てくれたん?」
「…倉子から 学校では大変だったって聞いてな」
こまさんが忠尋と柚子を迎えに行ったシーンに登場する商店は、本通りから前田小路を抜けた先の中通りにあります。
向かいには最上稲荷神社が鎮座しています。
こぢんまりとした神社ですが、よく手入れがされていました。
登場箇所:4巻P175
★歩道橋
「あらあら これは帰郷早々大変だわね」
御幸さんが三次に帰郷したときに渡っていた歩道橋です。
当時は淡い緑色でしたが今では赤く塗り替えられており、「三次市三次町」の文字も「信号は 青になっても 右左」の標語に変わっています。
「顔上げて前向きに 元気よく!」
「ばっ ばいばい」
自治体によっては老朽化した歩道橋を撤去するケースもあるなか、こうして現存しているのは向かいが学校だからでしょうか。
これからも末永く通学路の安全を守ってほしいものです。
登場箇所:1巻P115, 6巻P166
★倉子さんがロードスターを停めていた道
1巻第三話の扉絵で倉子さんがロードスターをここに停めていましたが、どう見てもそんなスペースはありません。
ここも作中では左右反転しています。
登場箇所:1巻P74
★巴橋
「山に入るなっていわれてる 先生たちから」
「そうなん? 尋 体弱いからかなあ」
三次を代表するランドマークである赤いアーチ橋が巴橋です。
もちろん作中でも随所に登場しています。
なんだろう この感じ
何もかも もう元通りのはずなのに
おぼろに霞むその先に 何かが翳っている
このあたりは江の川に西城川と馬洗川が合流する場所であり、3つの川が巴をなして合流することから「巴橋」と名付けられたそうです。
「わ すごい夕焼け」
現在のアーチ橋は昭和58年に架けられたもので、それまではコンクリート橋、更に前は木橋が架けられていたこともあったとか。
橋の4箇所に張り出しがあり、展望台と休憩所を兼ねたスペースが設けられています。
「なかなかやるじゃあないか」
直範おじさんと忠尋が夏祭りで殴り合いをしたあと、拳で語り会った河原も巴橋から見ることができます。
「じゃあ 帰りは直範おじさんの見舞いによってくるよ」
「うん …いってらっしゃい」
後ほど出てくるNTTの電波塔もよく見えます。
忠尋が一人で通学路をゆくシーンですね。
「ウチも一緒に連れてって 尋の世界に」
春には桜、夏には鵜飼やきんさい祭に花火大会、冬には赤い橋が白く染まるなど、四季折々で様々な表情を見せてくれる橋です。
登場箇所:3巻P162, 5巻P54, 6巻P130, 6巻P163, 6巻P207, 7巻P172他
★旧JR三江線 馬洗川橋梁
「菊理お姉ちゃんは?」
「とっくに外で待ってるよ 三十分前」
「わあ…」「どひぇ━━」
朝の登校前のシーンで1コマだけ登場する廃鉄道橋です。
旧JR三江線はここ三次市から島根県江津市の江津駅まで110kmあまりを結ぶローカル線でしたが、2018年に惜しくも廃線になりました。
この橋梁は現役時代さながらの姿で残っていますが、いずれは解体・撤去されてしまうと思われます。
帰って見返したところ、作中と写真とでは電柱の位置が逆でした。橋の対角から見ると作中のカットと同じになると思います。
登場箇所:6巻P128
★沖酒店
「おまたせ━━ よし じゃ行こうか」
「…はい」
朝の通学路で巫女委員会の面々が待ち合わせをしていた酒屋のモデルです。
現在は薬局として営業されています。
花の蕾のようなかたちの街灯は作中にも登場していますね。
登場箇所:6巻P129
★国土交通省 三次河川国道事務所の電波塔
「わたしは大事な多くのものを欠いているけど 乱裁様はそのありかを教えてくださらない」
乱裁の回想シーンにシルエットで登場した電波塔です。
手前の築堤は旧JR三江線のもので、作中には信号機のシルエットもありましたが、現在では撤去されています。
登場箇所:8巻P145
★JR芸備線 胡子架道橋(胡子橋りょう)
「まるで夜の海に舫を解かれた舟のよう」
同じく乱裁の回想シーンに登場したJR芸備線の短い橋梁です。
「けたに注意」の看板の「に」の文字が少しずれて書かれているのが特徴です。
登場箇所:8巻P145
★KANKO MIYOSHI CABARET
「ささやかな非日常のスリルは 一時間半であきた」
忠尋が学校をサボっていた映画館です。
かつては三次ラッキー劇場という映画館で、三次市で最後まで営業していた映画館でした。
廃墟のように見えますが、今でも飲食店が数件入居されています。
登場箇所:7巻P147
★NTTの電波塔
「しかし ここには何もありませんな 葛城の見張り台よりはマシそうですが」
作中にたびたび登場するNTTの電波塔です。
主上が初登場時に飛んでいたところですね。このあと直範おじさんが餅菓子を掠め盗られます。
「あちらさんも余裕のないことだ 女をからかう暇もくれんとは」
三次市のなかでもかなり背の高い建築物なので、わりとどこから見ても目立ちます。
かつては左側にもう少し低い鉄塔があったようですが、解体されたのか現存しません。
登場箇所:4巻P28, P35, P174他
★出会いの広場
「…そういうわけで しばらくはウチで菊理ちゃんをお世話しよってことに」
三次駅の近くに整備された公園で、立派な石工のベンチがあります。
乱裁の回想シーンでは背景と相まって強く印象に残る描かれ方をしていました。
出会った二人が座ると必ず幸せが訪れるとのことですが、今回は一人なのでスルー。
「乱裁様の目に わたしはありますか」
公園内の木には電飾が施されており、時期によってはイルミネーションが楽しめるとか。
それ以外は至って普通の公園のようです。
登場箇所:6巻P158, 8巻P146
★サングリーン
「これって通学路やぶりじゃないですか!?」
「(小学生ですか…?)」
「(ツッコミ待ちですか…?)」
三次駅の近くにあるショッピングモールで、巫女委員会の面々が放課後気合を入れて買い食いをしたところです。
スーパーやニトリを始め、中小のテナントが多数入居しています。
「流石にこの仕打ちはがっかりした ムカついた!」
御幸さんがこまさんへのお土産にチーズケーキとザッハトルテを買った「モーツァルト」は、ここの1Fにあります。
残念ながらミスタードーナツは2019年に閉店してしまいました。
登場箇所:4巻P214, 8巻P114
★柚子が自転車で爆走した道
「急げってゆわれて こんな装束でママチャリ立ち漕いで どうしてこんな目に遭わなきゃ…」
柚子が自転車で駆け抜けた馬洗川の土手です。
一帯の河川敷は十日市親水公園として整備されており、この日も少年野球チームが試合をしていました。
登場箇所:1巻P13
★水道橋
西城川と馬洗川の出合にほど近い場所に掛かる水道橋です。
1巻第九話の扉絵で楠木がこの橋を背にして立っていました。
車両通行止めですが、自転車と50ccまでの原付は渡ることができます。
水道橋にはたくさんの鯉のぼりが泳いでいました。
街を元気づけるために、使わなくなった鯉のぼりを集めて泳がせているとのことです。
そして今年はなんと5年ぶりの復活だとか。いいタイミングで訪問できました。
登場箇所:2巻P175
番外編 関連する場所とか
稲生武太夫碑
稲生物怪録の主人公である稲生武太夫の屋敷がこちらにあったそうです。
この人が肝試しに比熊山に登ったことで稲生物怪録が生まれたわけで、つまり朝霧の巫女の遠いご先祖と言えなくもない、かも?
白蘭酒造株式会社跡
かつて宇河弘樹先生公認の「清酒・朝霧の巫女」を製造していた酒造会社の跡地です。
1904創業の老舗でしたが、数年前に廃業してしまったようです。
三上貫栄堂 泡雪三姉妹
稗田三姉妹、倉子・柚子・珠の名前の由来になった三次銘菓です。
左から柚子・小倉・玉子で、ふわっとした食感と程よい甘みが日本茶によく合います。
青猫 <寝床と学び舎>
今回お世話になった宿です。
気配りが行き届いた優しい小宿で、雨でも楽しく過ごせたのはここのおかげと言っても過言ではありません。
朝霧の巫女の聖地巡礼のお供に是非。
おわりに
4月29日は残念ながらとんでもない雨に降られて巡礼どころではなかったので、4月30日の午前中という限られた時間のなかで駆け足気味に巡ってきました。
開発により当時の風景とは様変わりしてしまったり、建物が老朽化で取り壊されてしまったなどで、今では見ることができなくなってしまった場所もあります。
(JR三次駅前、CCプラザなど)
他にも水垢離の滝や、市内を見下ろす展望台的な場所にも時間的な都合で行くことができなかったのが心残りです。
三次には他にも三次鵜飼(小説の中でしか見たことがない!)や霧の海など、まだまだ見てみたいものがたくさんあります。
いつかまた必ず再訪します!!
手をつなごう
けして独りで離れぬよう
迷わぬように